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長崎地方裁判所 昭和28年(行)1号 判決

原告 藤原元興

被告 長崎県知事

一、主  文

原告の請求中被告が昭和二十七年三月二十八日附を以て長崎県南松浦郡久賀島村第一漁業協同組合外一組合に与えた同郡同村猪之木郷細石流地先定置漁業権五定第二八号免許の取消を求める部分を棄却し、その余の部分を却下する。訴訟費用は全部原告の負担とする。

二、事  実

原告法定代理人は「被告が昭和二十七年三月二十八日附を以て長崎県南松浦郡久賀島村第一漁業協同組合外一組合に与えた同郡同村猪之木郷字細石流地先定置漁業権五定第二八号の免許を取消す。被告は右免許を原告に与えよ。訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求めその請求原因として長崎県南松浦郡久賀島村猪之木郷細石流地先定置漁業権免許申請について被告はその諮問による訴外五島海区漁業調整委員会(以下委員会と略称する)の答申に基き昭和二十七年三月二十八日同村第一、久賀の両漁業協同組合(以下両組合と略称する)に五定第二十八号として免許を与えたがその免許は次の事由により取消さるべきである。

(一)  実体上の事由

前記両組合は昭和二十七年三月四日その漁業権の免許申請を共同して出願し、それには自己資金二百万円、借入金二百万円の外別途資材を借入れて自営する旨の事業計画書を添附したがその実両組合は前記免許の日以前たる三月十七日附で訴外大洋漁業株式会社との間に、同漁業権を免許の日より昭和三十年五月末日迄右会社へ無償で譲渡する契約を締結し且同月十五日同会社の手で漁具(側張)が定置せられ、同会社は同年三月二十八日から五月二十日迄本件漁業権を完全に支配し漁期終了後手数料寄附金として金八十万円を両組合に手交した。即ち両組合が自営する旨の申請書は全く虚偽でありかゝるものに漁業権者の適格性はない。

(二)  形式上の事由

前記委員会は昭和二十七年三月二十五日被告の諮問による本件漁業権免許申請人の適格性審査、優先順位決定の公聴会を開いたが、その席上訴外山下佐吉の両組合の申請が虚偽である事実を述べた陳情書が公開されたにも拘らず委員会には両組合が前記申請書に添附した資金計画とは異る契約書を提出し朗読しそこに疑義あるに拘らず

(イ)  職務上の義務である実体調査をなさず

(ロ)  かゝる場合適用すべき漁業法(以下法と略称する)第十四条第一項による総委員の三分の二以上の特別議決による投票をなさず

両組合に適格性あり且つこれを第一順位とする旨決議しこれを被告に答申したため被告はこれに基き前記の如き免許を与えた。然しながらかゝる法律の規定に違反する決議、答申に基いて被告のなした免許は取消さるべきであるから原告は被告に対し法第百三条に基きその再議請求をしたところ被告は同年四月二十五日これを却下して来たので原告は更に農林大臣宛その取消を求めて行政訴願をなしたがこれ又昭和二十八年五月四日附で却下し来つたが何れも法律の解釈を誤つている。

(ハ)  又両組合が訴外大洋漁業との間に締結したという契約は、久賀漁業協同組合定款により会期の十日前に附議事項を定めて召集通知をなし水産業協同組合法により組合の毎事業年度に於ける事業計画の設定並に変更は定時総会の議決を経ねばならぬことになつているに拘らず本件に於いてはその議決を欠いている。

(三)  免許後に於ける取消(仮定的主張)

両組合は本件免許後に於ても漁業法の精神を蹂躙しているから被告は一旦免許を与えた後であつても法第三十八条第三項、第三十九条第二項により本件漁業権を取消すべきである。

以上の如き事由により被告の与へた本件漁業権免許を取消し委員会が昭和二十七年三月二十五日になした原告に適格性あり且これを第二順位とする旨の答申に基き原告にその免許を与えるべきであると述べた。(立証省略)

被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め答弁として被告が原告主張通り昭和二十七年三月二十八日両組合に五定第二十八号の漁業権免許を与えたこと、五島海区漁業調整委員会が免許前に実体調査をなさなかつたこと並に投票によらなかつたこと、原告から被告宛その主張の如き再議請求並に農林大臣宛行政訴願をなし何れも却下になつたことは認めるがその他は全部争う。即ち被告は昭和二十七年一月二十八日本件漁業権免許附与の事前措置とし前記委員会宛漁場の位置、申請期間等に関する諮問を発しその答申に基き同年三月四日長崎県告示第百八号を以て申請受付の公示を為したところ同月六日両組合から同月八日原告からその免許申請がなされたので被告は同月十三日漁業法第十二条に基き委員会宛申請人らの免許の適格性、優先順位についての諮問を発した。而して同委員会は同月二十五、二十六の両日に亘り審議を遂げ同月二十七日被告宛両申請人ともに適格性あり、順位は両組合が法第十六条第八項に該当するので第一順位、原告を第二順位とする旨答申し来つたので被告はその意見を検討すると共に独自の立場で諸法規を参照し団体優先の立場のもとに最も妥当と思量する所に従い、同年三月二十八日両漁業組合に免許を与へたものであつて同委員会の決議の瑕疵と被告の免許との間に関連はない。且

(一)  実体上の事由については

原告のいう大洋漁業との間の無償契約なるものは曾て同漁業と久賀漁協との間に一方的に結ばれた契約案に過ぎないのであつて共同出願をした両組合はこれを承認せず両組合の理事会がこれを修正し昭和二十七年三月二十日の理事会で組合を主体とする自営契約に改めたのであつて無償譲渡の事実はない、法第三十八条第四項は漁業権者が他人から出資を仰ぐことを容認している。

(二)  形式上の事由については

(イ)  実体調査をしなかつたのは両申請人共に適格性ありとしたのでその必要を認めなかつたのである。

(ロ)  法第十四条第一項第一、二号の投票の規定は訓示規定であり適格性の裁定について委員の意見が特に問題とならない限り一々投票を行う趣旨ではない。

(ハ)  (認否せず)

仮に同委員会の決議に瑕疵があつたとしても、被告の免許処分とは何等関連性がないのだから、そのため、被告の免許処分が、違法又は無効になる理由はない。

(三)  免許後の取消について

両組合に於ては昭和二十七年五月二十日以降完全に自営してゐるのであるから被告はこれを取消す必要はなく且原告がその取消を要求する権利はないと述べた(立証省略)。

三、理  由

被告が、この答申に基き、同月二十八日両組合に同村猪之木郷細石流地先の定置漁業権の免許を五定第二十八号として与へたこと、原告が、これを不服として被告宛その再議請求をなしたが、同年四月二十五日却下されたので、更に、農林大臣宛その行政訴願をし、これ又昭和二十八年五月四日附で却下になつたことは何れも当事者間に争がない。

その方式及び趣旨により真正に成立したものと認められる乙第一号証並に成立に争のない乙第二乃至第七号証によれば今次漁業改革の実施に際し、両組合は、本件漁場に対する「ぶり」定置漁業権の免許を得ようと意図し、昭和二十六年十月二日被告宛本件漁場に対する漁場計画の設定方を陳情し、被告が、翌二十七年一月二十八日その免許内容について前記委員会に諮問を発したこと、そこで同委員会が、同年二月二十六日公聴会並に委員会を開いて審議した結果諮問通りの施行を答申し来つたので、被告が、同年三月四日長崎県告示第百八号を以て本件定置漁業権の免許申請期間を同日から同年三月十日迄として告示したところ両組合は翌五日附を以て原告又同日附を以て夫々免許申請をなしきたりここに競願の形となつたこと、そこで、被告が、同年三月十三日附を以て委員会宛その適格性、優先順位について諮問を発したところ委員会に於ては審議を遂げた後両者共に適格性あり優先順位については両組合は法第十六条第八項に該当するので第一順位、原告を第二順位とする旨の答申をなし来つたことが認められると同時に、そこで被告の本件免許が、果して原告主張のように違法であるかどうかについて検討する。

一、先ず実体上の違法事由として、原告は両組合及び訴外大洋漁業株式会社間に、本件漁業免許の日から昭和三十年五月末日迄同訴外会社に漁業権を無償で譲渡する旨の契約が締結され、この契約の趣旨に基き、同訴外会社が、同月十五日係争漁場に漁具(側張)を定置しており、両組合が自営するというのは虚偽の申立であり、斯様な者に漁業権者の適格はなかつた旨主張するので考えて見るのに、成程証人山下佐吉、川端喜三郎、川崎義英は、いずれも原告の右主張に副う証言をしており、甲第二号証には、両組合及び訴外大洋漁業間に原告主張のような無償譲渡契約を締結する旨の記載が存在しているけれども、むしろ飜つて、成立に争のない甲第八号証、第十一号証、第十五号証、第三十六号証、第四十一号証、同乙第四号証、第六号証の二、第九号証、第十五乃至第二十八号証、証人小河原亀次郎、上村仁右衛門、平山宇三郎、江頭鉄之助、田中糾、本多金一郎、山下寅之助、坂谷金夫、中村三次郎、山下助太郎、森松太郎、間渕哲夫、市原勝幸の各証言を綜合すると、前陳のとおり両組合は、本件漁場に対する漁場計画設定方の陳情に及んだのであるが、その後被告から委員会に対し、その免許内容についての諮問が発せられ、免許を受け得る見込が濃厚になつたところから、昭和二十七年二月二十五日合同の臨時総会を開催し、免許の暁は飽くまで両組合共同で漁業の自営をすべきことを決議すると同時に、免許申請手続及び免許後の経営方法の決定を両組合の理事会に一任したので、両組合理事会は、この委任に基き、取りあえず資金計画書(乙第四号証の一中の夫)を作成した上、これを添付して前示免許申請に及んだこと、この計画書によると、本件漁業資金は、両組合の出資金二百万円、久賀島村からの借入金二百万円、訴外東製網株式会社からの現物借入八百万円計金千二百万円を以て充て、これが運用方法は、固定設備資金三百万円、運転資金九百万円とすることになつていたのであるが、該資金の調達が到底できそうになかつたところから、両組合理事等は、大いにこれを苦慮したこと、そこで、当時久賀漁業協同組合の組合長であつた訴外山下佐吉が中心となり将来免許により取得すべき漁業権を訴外大洋漁業株式会社に四年間無償譲渡すべき契約案(前顕甲第二号証)を立て昭和二十七年三月四日の同組合緊急役員会にかけた後同年三月十七日(この日は前記山下佐吉に代つて訴外平山宇三郎が久賀漁協の組合長となつた翌日である)同村藤屋旅館で両組合の役員会にかけ種々審議したのであるが、この契約案では両組合の自営にならず、漁業法に違反するということが決議採用されるに至らなかつたこと、一方訴外久賀島村々長江頭鉄之助は昭和二十六年の某日前記山下佐吉らとともに長崎行きの船室で訴外大洋漁業福江出張所長田中糾と遭つて話した時以来同漁業と提携して本件漁場の開発、運営を目論んでいたが前記の無償譲渡案では漁業法に違反するというところから新たな方策を考え右田中糾との間に当時丁度不要になつていた同漁業玉の浦黒瀬漁場の資材を適当な価格で買入れることとする代り漁獲物は同漁業に委託販売をなし、その資材代に優先的に充当するとともに漁獲物の販売手数料五パーセントを支払うという案を話しあつて持来つたので両組合に於ては同月二十日緊急役員会を開いて審議し、全員一致でこの案を可決しその旨右田中の諒解を得、且目前の公聴会を控えて急を要する状況にあつたので、翌二十一日第一漁協の坂谷専務理事を福江に派し正式に契約書(甲第九、第十一号証、乙第十六号証、――以上は全部同じ内容に帰する)をとり交し同月二十五、六の両日福江町の教育会館で開かれた前記委員会の公聴会にこれを提出したこと、及び本件漁業免許後両組合において、約旨に従い訴外大洋漁業から黒瀬漁場備付の資材を譲り受け、なお技術者の提供をも受けた上、各組合選出の委員を以て合同の運営委員会を組織し、漁業の経営に当らせ、(同年三月二十二日頃両組合の手で側張をした)更に同年六月十一日、同訴外会社との間に第二事業年度以降については、両組合が三分、同訴外会社が七分の出資をして、引続き自営すべき旨の契約を締結したことを是認することができるのであつて、これ等諸般の事実から判断すると、本件においては、被告の免許当時両組合は、訴外大洋漁業からその豊富な経験、技術、資材及資金の提供、援助を得て、飽くまでも漁業を自営して行く決意を有していたものであり、同訴外会社によつて実質上漁業の経営を支配されるおそれは少しもなかつたものと判定するのがまことに相当であり、以上の認定に資した証拠資料との対照上、原告の前示主張に副う山下、川崎、川端証人等の証言は、いずれも容易に信用し難く、甲第二号証その他原告の全立証によつても、これを肯定するのに足らない。

二、形式上の事由について

(イ)  実体調査をしなかつたとの点について

成立について当事者間に争のない甲第十五号証(乙第六号証の二)によれば昭和二十七年三月二十五、六の両日開かれた前記委員会の席上訴外山下佐吉提出の陳情書が朗読され、免許申請書添附の資金計画と、その後両組合と大洋漁業間に結ばれた契約書の内容の食違いが問題となり討議が為されたことは原告主張の通りであるが更に同証によれば、同委員会に於ては利害関係人を招き慎重に審議を遂げた結果、両組合の適格性は動かないとみて全員一致でこれを採決したものであることが認められるから、たとえ同委員会が事前に実体調査をなさなかつたとしても、その間、何等の違法はないこと勿論である。況んや同委員会の出した両組合に適格性ありとする結論が上段認定の如く当裁判所の結論と同様なるに於ては尚更である。

(ロ)  法第十四条第一項による総委員の三分の二以上の特別議決を経なかつたとの点について

当時総委員の三分の二以上の投票によらなかつたことは当事者間に争のない事実であるが同項の規定はその各号所定の不適格の認定をすることの重大性を考慮し、その認定に当り慎重を期するため、特に特別決議によるべきことを定めたものであることは、同項の文詞自身並びに成立に争のない乙第十四号証に照して明かであつて本件の如く満場一致を以て不適格者なしとする場合に妥当する規定ではない。

そればかりでなく、元来海区漁業調整委員会は、単に都道府県知事の諮問機関として、漁業免許の当否につき意見を答申するのであることは、法第十二条等の諸規定により疑を容れないところであるから、たとえ本件委員会の認定に原告主張の(イ)(ロ)のような形式上のかしが存在するとしても、これがために、被告の免許処分を違法又は無効ならしめることはないものというべきである。

(ハ)  定款に違反するという点について

原告は前段認定の両組合と訴外大洋漁業との間の契約は定時総会の議決を欠いていると主張するのであるが、本件のように漁業権の免許申請をし、知事において、その許否を決定するような場合にあつて、申請者の適格性の有無を決定する比準として、申請者に真実漁業を経営する意思の存在することが、適法な総会決議の方法により、明確にされさえすれば、その経営に要すべき資金の調達方法をどうするかというような事項については、必ずしも斯様な決議を経ることを要せずこの点に関する申請者の意思を知り得る程度の適宜の処置を講ずれば足るものと解すべきところ、成立に争のない乙第四号証の一にある久賀島村第一、久賀両漁業協同組合臨時総会、決議録抄本(記録二〇四丁三〇〇丁)によれば両組合に於ては昭和二十七年二月十五日本件即ち定置漁場計画設定並に免許出願に関する件を通知事項の内容として総会招集の通知を発し同年二月二十五日午後一時から久賀禅海寺に於てその審議をなし全員一致で両組合合同により漁業を自営すべきこと、但しその出願手続及び免許後の漁業運営方法は早急を要することであるから両役員会へ委任するという決議がなされて組合員の意思は充分尊重され且つ明かにされていることが看取されるから、原告のこの点に干する主張も採用し難い。

三、免許後に於ける取消について

原告は被告は両組合に一旦免許を与へた後であつても法第三十八条第三項、第三十九条第二項により両組合に与えた免許を取消すべきであると主張するが両組合の本件免許後における漁業の経営が両組合の主導権の下に行われ、訴外大洋漁業株式会社によつて支配されつゝある事跡のないことは、前段認定のとおりであり、外に両組合が漁業に関する法令に違反した事の見るべき何等の証拠も存在しないので既にこの点で原告の主張は失当であるばかりでなく、第三者の漁業経営支配を理由とする免許の取消は、法第三十八条第三項によつても明かであるように、唯海区漁業調整委員会の申請に基いてのみ、都道府県知事がこれを決することのできるものにすぎないのであるから、同条項の規定を無視して、原告から、その取消を訴求することはできないものというべきである。

以上各般に亘る原告の請求原因について検討を加へて来たが被告が委員会の答申を尊重し且今次漁業改革の精神に則り、第一順位の適格性を有する両組合に本件漁業権の免許を与えたことに違法はなく免許後に於ても之を取消すべき事由はないといわねばならないから、原告の本訴請求中免許の取消を求める部分はその全部に亘り失当として棄却すべきであり、更に免許の付与を求める部分は当初の免許付与に関する限り原告は第二順位の適格性を有し深い利害関係に立つものではあつても、司法機関が行政機関に特定の行政処分を命ずることは、日本国憲法の規定する三権分立の建前上許さるべきでないと考えられるからこれを却下することとし訴訟費用は民事訴訟法第八十九条に則り全部原告の負担とする。よつて主文の通り判決する。

(裁判官 林善助 入江啓七郎 菊地博)

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